【心不全×リハビリ】再発防止と体力回復に
【はじめに:心不全は退院後が本当のスタート】
「心不全で入院して退院したけれど、息切れや疲れやすさが続いている…」
名古屋市南区の患者様でこういった声は少なくありません。
心不全は一度良くなっても再発・再入院のリスクが非常に高い慢性疾患です。とくに高齢者では、退院後の体力低下や生活習慣の乱れが原因で、短期間に再発してしまうケースも。
そのため、近年では心不全の“予後”を改善するための「心臓リハビリテーション」が非常に注目されています。
【心不全とは?慢性進行性の心臓病】
心不全とは、心臓のポンプ機能が弱まり、全身に十分な血液を送れなくなる病態です。
急性・慢性の両方があり、原因は以下のように多岐にわたります:
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高血圧・心筋梗塞・心筋症などの心臓病
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弁膜症
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不整脈(心房細動など)
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糖尿病や腎臓病による心機能の悪化
症状としては以下のようなものが多く見られます:
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動いたときの息切れ
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倦怠感、疲れやすさ
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足のむくみ
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夜間の呼吸困難
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食欲低下や体重減少
これらの症状は軽快と悪化を繰り返すため、再発予防のための包括的なケアが必要です。
更に詳しい内容は以下の病気辞典からご覧いただけます
【なぜ“心臓リハビリ”が必要なのか?】
心臓リハビリテーション(心臓リハビリ)は、心不全をはじめとする心血管疾患の再発や病状進行を抑制するうえで、極めて重要な治療介入の一つです。
単なる運動療法にとどまらず、医師、理学療法士、看護師、管理栄養士、薬剤師、臨床心理士などの多職種が連携し、運動指導・栄養管理・服薬指導・心理支援・生活指導を包括的に提供する、エビデンスに基づいた医療プログラムです。
心臓リハビリの主な医学的効果
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心不全による再入院率の有意な低下(約30〜40%減少)
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運動耐容能(ピークVO₂、6分間歩行距離など)の改善
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安静時および運動時の心拍数・血圧制御の正常化
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QOL(生活の質)の改善およびADL(日常生活動作)の向上
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不安・抑うつ症状の軽減
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高齢者におけるフレイル・サルコペニアの進行予防
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医療費の抑制および社会復帰の促進
日本循環器学会の「心不全治療ガイドライン(2021年改訂版)」では、心不全に対する心臓リハビリはクラスI(最も強く推奨される)の治療として位置付けられています。
欧米のACC/AHA/HFSAガイドラインやESC(欧州心臓病学会)ガイドラインでも同様に、慢性心不全患者への心臓リハビリは標準治療の一環とされています。
心不全の進行と治療目標:ステージごとのアプローチ
心不全は単一の病期ではなく、A〜Dの4つのステージに分類され、各段階での治療目的が異なります。以下の図は、日本循環器学会が提唱する「心不全の病の軌跡」を視覚化したものです。時間の経過とともに心機能が徐々に低下し、介入のタイミングと目的が変化していく様子を示しています。
参照:2025 年改訂版心不全診療ガイドライン 心不全ステージの治療目標と病の軌跡
ステージ | 病態の概要 | 主な治療目標 |
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StageA | 心不全の危険因子(高血圧、糖尿病、慢性腎疾患など)を有するが、構造的心疾患や症状なし | 心不全の発症予防 |
StageB | 構造的心疾患あり(心筋症、心肥大、心筋梗塞後など)だが、心不全症状はない | 心不全の顕在化予防(進行抑制) |
StageC | 心不全の症状(呼吸困難、浮腫、易疲労感など)が出現し、入退院を繰り返す | 症状コントロール、再入院予防、QOL改善 |
StageD | 治療抵抗性・終末期心不全。高度の症状と機能障害を伴い、緩和的ケアが中心 | 緩和ケア・症状緩和・尊厳ある生活支援 |
このように、心不全の進行段階に応じた治療戦略の一つとして、Stage C以降の患者に対して心臓リハビリテーションを適切に導入することは、臨床的に大きな意義があります。
とくに慢性心不全においては、再入院を繰り返させないこと、生活機能を維持・向上させることが治療の重要なゴールとなります。
参照:https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Kato.pdf
心不全を悪化させないために ~日常生活で避けたいこと~
心不全は、日々の生活習慣やちょっとした行動の積み重ねで症状が悪化してしまうことがあります。再発や入院を防ぐためにも、「やってはいけないこと=禁忌事項」を知っておくことがとても大切です。以下に、心不全の方が気をつけたい代表的なポイントをご紹介します。
■ 塩分や水分の摂りすぎに注意
塩分を多く摂ると、体内に水分がたまりやすくなり、心臓に大きな負担をかけてしまいます。水分制限が必要な方もいますので、医師の指示を守るようにしましょう。
■ 市販の痛み止めは要注意
風邪薬や頭痛薬に含まれる「NSAIDs(非ステロイド性抗炎症薬)」は、心不全を悪化させる恐れがあります。市販薬を使用する前には、必ず主治医に相談しましょう。
■ 無理な運動は禁物
体調が良くなったからといって急に運動を始めると、心臓に過剰な負担がかかってしまうことがあります。運動は大切ですが、医師やリハビリスタッフの指導のもとで行いましょう。
■ 飲酒・喫煙は心臓に大きな負担
アルコールやタバコは心機能に悪影響を及ぼします。特に喫煙は血管や心臓にダメージを与えるため、禁煙・禁酒が基本となります。
■ 薬の自己判断による中止は危険
症状が落ち着いたからといって、ご自身の判断で薬をやめるのは危険です。服薬は医師の指示に従い、定期的な診察を受けながら継続することが大切です。
■ ストレスや睡眠不足も注意
精神的ストレスや慢性的な睡眠不足も、心臓に負担をかける要因です。心身ともに無理のない生活を心がけ、休養をしっかりとりましょう。
【心臓リハビリの流れ】
① 初診・医師による総合評価
まず、循環器専門医による診察と検査を行い、リハビリの必要性と安全性を判断します。
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心電図で不整脈の有無を確認
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心エコーで心機能(EF)や弁膜症の有無を評価
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血液検査でBNPや腎機能、栄養状態をチェック
患者さんの既往歴や生活状況を丁寧に確認し、医学的根拠に基づいた初期評価を行います。
② 運動耐容能の評価(運動負荷試験)
安全なリハビリを行うために、どの程度の運動が可能かを測定します。
代表的な検査として、以下を実施します。
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6分間歩行テスト(6MWT):歩行距離から日常生活レベルの体力を評価
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心肺運動負荷試験(CPX)※必要時:呼吸と循環の能力を詳細に分析
これにより、リスクを回避しながら進められる安全な運動処方が可能になります。
③ 個別のリハビリプログラムを作成
検査結果をもとに、医師・理学療法士・看護師・管理栄養士が連携し、一人ひとりに合わせたリハビリ計画を立案します。
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有酸素運動や筋力トレーニングの内容
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食事・栄養の見直し(塩分・水分・エネルギー摂取)
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日常生活での注意点(入浴、体重管理、服薬管理など)
リハビリの頻度は週1~2回の通院が目安。ご本人やご家族の希望に応じて柔軟に調整できます。
④ リハビリ実施:運動・食事・生活改善の3本柱
1. 有酸素運動療法
エルゴメーター(自転車)やウォーキングを用い、心拍数・血圧・SpO₂をモニタリングしながら安全に運動を行います。
症状の変化にも常に注意を払い、段階的に運動量を増やします。
2. 栄養・食事指導
減塩食(1日6g以下)や水分制限、栄養バランスの整え方について、管理栄養士が具体的なアドバイスを行います。食欲低下や調理の工夫についても対応可能です。
3. 生活習慣の見直し
毎朝の体重測定、服薬の自己管理、睡眠・排泄・ストレス対策など、日常生活全体をサポート。ご家族への助言も行い、家庭全体での心不全管理を目指します。
⑤ 再評価と継続プランの見直し
1~2か月ごとに再評価を行い、心臓の状態や体力、生活の変化に応じてプログラムを見直します。
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6分間歩行距離の変化
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BNP・体重・血圧の推移
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生活の自立度・活動量の変化
改善が見られれば運動強度を高め、悪化の兆候があれば早期介入につなげます。
当院でも「無理なく、長く続ける」ことを重視した柔軟なサポートを行っています。
【よくあるご質問(FAQ)】
Q:リハビリは何歳まで受けられますか?
→年齢制限はありません。80代・90代の方でも無理なく行える内容です。
Q:保険は使えますか?
→健康保険が適用されます(医療機関の基準により異なる場合があります)。
Q:どれくらいの期間通えばよいですか?
→一般的には3~6ヶ月を目安に行いますが、状態により継続的なフォローも可能です。
【まとめ|心不全の再発を防ぐ心リハ】
心不全の治療は、薬だけでは不十分です。
運動・栄養・生活習慣の改善を組み合わせた「心臓リハビリ」こそ、再発予防の最前線です。
名古屋市南区で心不全にお悩みの方、退院後の体力回復が不安な方は、どうぞお気軽に植谷医院へご相談ください。
地域に根差した医療で、あなたの「これから」を支えます。
執筆者:
植谷医院 院長 植谷忠之(うえたに ただゆき)
日本内科学会認定医
日本内科学会総合内科専門医
日本循環器学会専門医
愛知県難病指定医(内科・循環器内科)
AHA ACLSプロバイダー・BLSプロバイダー
日本心臓リハビリテーション学会 心臓リハビリテーション指導士
日本心血管インターベンション治療学会