狭心症とは|心筋梗塞の前兆かも?“胸の痛み”とその対処法
「胸が締めつけられるような痛みを感じた」「運動中に胸が苦しくなったが、少し休んだら治った」──このような経験はありませんか?一見、疲れやストレスのせいだと思ってしまう症状でも、実は心臓の血管が発する重要なサインであることがあります。それが「狭心症」です。
日本では心疾患が死因の上位を占めており、名古屋市南区のような都市部でも、早期発見・早期治療が命を守るカギとなります。当院・植谷医院(名古屋市南区)では、狭心症の診断・予防・治療に力を入れており、循環器内科の専門医が症状や生活習慣に合わせた丁寧な対応を行っています。
このコラムでは、「狭心症とは何か」「どのような症状に注意すべきか」「どう治療するのか」といった基礎知識から、当院での診療内容までわかりやすく解説します。胸の痛みや違和感がある方、心臓が気になる方は、ぜひ最後までお読みください。
狭心症とは―心臓の血管からの“酸素不足”のサイン
狭心症とは、心臓の筋肉(心筋)に酸素を送る冠動脈の血流が一時的に不足することで生じる疾患で、主な症状は胸の痛みや締めつけ感です。心臓は全身に血液を送り出すポンプの役割を果たしていますが、その心臓自身も酸素と栄養を必要としており、それを供給するのが冠動脈です。
しかし、この冠動脈が何らかの原因で狭くなると、必要な酸素が心筋に行き渡らなくなり、狭心症の症状が現れます。
狭心症の主な原因
狭心症の最大の原因は、動脈硬化(どうみゃくこうか)です。動脈硬化とは、血管の内側にコレステロールなどの脂質が徐々にたまっていき、「プラーク」と呼ばれる塊を形成し、血管の内腔を狭くしてしまう状態を指します。
この変化が冠動脈で起こると、心筋に十分な血液が届かなくなり、酸素不足に陥ることで狭心症の症状が現れます。
動脈硬化を進行させる主な要因には、高血圧、糖尿病、脂質異常症(高LDLコレステロール)、喫煙、加齢、肥満、ストレス、運動不足などが挙げられます。特にこれらのリスク因子が複数重なっている場合、狭心症の発症リスクが大きく高まります。
このように冠動脈が狭くなった状態では、運動や強いストレスといった心臓の酸素需要が増える場面で、供給が追いつかなくなり、胸の痛みや圧迫感として症状が現れます。これがいわゆる「労作性狭心症」です。
また、狭心症には別のタイプもあります。冠動脈が一時的にけいれん(収縮)することによって急激に血流が低下する「冠攣縮性(かんれんしゅくせい)狭心症」です。こちらは夜間や早朝など、安静時に突然起こることが多く、喫煙や寒冷刺激、ストレス、自律神経のバランスの乱れなどが関係しているとされています。
いずれのタイプにおいても、心筋に酸素が行き渡らない状態が続くと、胸部の締めつけ感や圧迫感、灼熱感(やけるような痛み)などの症状が数分間続きます。通常は安静にすることで自然と軽快しますが、症状を放置すると、血管が完全に詰まり、心筋梗塞へと進行する危険性があるため、早期の診断と対応が非常に重要です。
狭心症の主な症状
狭心症のもっとも代表的な症状は「胸の痛み」ですが、その感じ方や現れ方には個人差が大きく、典型的な症状が出ないケースも少なくありません。そのため、「なんとなく調子が悪い」「疲れやすい」といった軽い違和感として見過ごされてしまうこともあり、注意が必要です。
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胸の痛み・圧迫感・締めつけ感
最もよく見られるのが、胸の中央〜左側にかけて生じる痛みや圧迫感です。多くの患者さんは、「胸が押しつぶされるような」「重いものが乗っているような」「締めつけられるような」と表現します。
この痛みは、運動時や階段の上り下り、寒い朝の外出時、精神的な緊張時などに突然始まり、通常は数分以内で自然におさまります。安静にする、もしくはニトログリセリンを服用すると改善するのが典型的です。
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放散痛(他の部位に広がる痛み)
狭心症の痛みは必ずしも「胸」に限られるわけではありません。
心臓からの痛みの信号は、神経の経路を通じて他の部位に「関連痛」として現れることがあります。
特に以下のような放散痛がよく見られます:
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左肩・左腕(特に内側)
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首や喉の違和感
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顎の痛み
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背中、肩甲骨のあたりの鈍い痛み
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みぞおちの圧迫感(胃の不調と間違えられることも)
こうした部位に現れる痛みが一時的で繰り返す場合、狭心症を疑うきっかけになります。
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呼吸困難・息切れ
「胸の痛みはないけれど、最近すぐ息が上がる」「運動が長続きしない」というケースでも、狭心症が隠れていることがあります。特に高齢者や糖尿病患者では、典型的な胸痛が出にくく、代わりに息切れや倦怠感(だるさ)として現れることが知られています。
また、「ちょっと歩いただけで呼吸が苦しくなる」「以前より階段がつらくなった」といった変化がある場合は、狭心症や心不全の初期症状である可能性があります。
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冷や汗・吐き気・めまい・不安感
狭心症の発作時には、交感神経が強く刺激されるため、冷や汗が出る・吐き気を感じる・不安になる・軽いめまいがするなどの症状を伴うことがあります。これらは軽く見られがちですが、心臓からのSOSの一部であることも少なくありません。
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「無症候性狭心症(サイレント狭心症)」にも注意
特に高齢者や糖尿病のある方では、自覚症状がまったくないにもかかわらず、心電図などの検査で狭心症の兆候が見つかることがあります。これは「無症候性狭心症(サイレント狭心症)」と呼ばれ、発見が遅れると心筋梗塞や心不全を突然発症する危険性があります。
こうしたケースでは、定期的な健診や心電図検査が重篤な疾患を未然に防ぐ鍵になります。
狭心症の種類と特徴
狭心症は、症状の現れ方や発症する状況によって主に3つのタイプに分けられます。それぞれの特徴を知ることで、症状の理解や適切な対応につながります。
種類 | 特徴 |
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労作性狭心症 | 運動や身体活動時に胸痛が起こる。安静にすると症状が軽減。 |
安静時狭心症 | 夜間や早朝など安静時に胸痛が発症。冠動脈のけいれんが原因。 |
不安定狭心症 | 症状の頻度や強さが増し、心筋梗塞の前段階。緊急対応が必要。 |
狭心症の対処方法
狭心症の予防や再発の防止には、単に薬を飲むだけでなく、日常の生活習慣を見直し、リスク因子を総合的に管理することが極めて重要です。とくに、心筋梗塞など命に関わる疾患へ進行しないためにも、早期の対策が欠かせません。
以下に、予防と改善のための具体的なポイントを解説します。
1. 生活習慣の改善:毎日の積み重ねが、心臓を守ります
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食事の見直し
コレステロールや飽和脂肪酸を多く含む食事(揚げ物、加工肉、乳製品など)は動脈硬化を進める原因になります。
→ 魚・野菜・大豆製品・海藻中心の“地中海型”または“和食中心”の食事が効果的です。塩分は1日6g未満が推奨されています。 -
運動習慣の導入
ウォーキングや軽いジョギング、スイミングなどの有酸素運動を1日30分、週3〜5回程度取り入れると、心肺機能の向上と血管の柔軟性を保つ効果があります。
※無理な運動は逆効果になるため、医師と相談しながら進めましょう。 -
禁煙の徹底
喫煙は狭心症の最大の危険因子の一つ。1本のタバコでも血管を収縮させ、血液をドロドロにします。
→ 禁煙外来を活用して、計画的に禁煙に取り組みましょう。当院でも禁煙外来をご相談いただけます
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十分な睡眠と規則正しい生活
睡眠不足や不規則な生活は交感神経を過剰に刺激し、血圧や心拍を不安定にします。
→ 毎日同じ時間に起きる、深酒を避けるなど、自律神経の安定を意識した生活リズムを整えることが大切です。
2. 体重管理:肥満は心臓にとって大きな負担
肥満は高血圧・糖尿病・脂質異常症のリスクを同時に高め、動脈硬化の進行を加速させます。特に**内臓脂肪型肥満(いわゆる「隠れ肥満」)**は要注意。
→ BMI 25未満、腹囲は男性85cm、女性90cm未満が一つの目安です。体重だけでなく、体脂肪や筋肉量もあわせて管理しましょう。
3. ストレス管理:心と血管の健康を守るために
精神的ストレスは、自律神経やホルモンバランスに影響を及ぼし、血管の収縮・けいれんを引き起こすことがあります。
→ 瞑想や深呼吸、趣味の時間、自然の中で過ごすなど、「心を休める時間」を意識的に設けましょう。
過剰なプレッシャーを感じやすい方は、心療内科やカウンセリングの利用も有効です。
4. 定期的な健康チェック:異常の早期発見と管理
狭心症のリスク因子である高血圧・高血糖・高コレステロールは、自覚症状が乏しいため放置されやすいものです。
→ 年に1回の健康診断に加えて、循環器専門医による定期的な心電図・血液検査・心エコーなどのフォローアップを受けることで、病気の「隠れた進行」を未然に防ぐことができます。
5. 医師の指導による薬物療法:自己判断せず、継続的に管理を
狭心症の治療では、冠動脈の血流を改善する薬(ニトログリセリン製剤やカルシウム拮抗薬)、心拍数を安定させるβ遮断薬、血栓を防ぐ抗血小板薬などが使われます。
→ これらの薬は、“症状を抑える”だけでなく、再発や心筋梗塞を予防する”ためにも重要です。
「痛みがないから」と服薬を中断すると、逆に重症化するリスクも。副作用が気になるときも、勝手に中止せず医師に相談してください。
植谷医院での狭心症の診断と治療
当院では、狭心症の正確な診断と適切な治療を提供するために、以下のような検査と治療を行っています。
診断方法
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安静時心電図検査
心臓の電気的な活動を記録し、不整脈や狭心症の兆候を確認します。
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負荷心電図検査(トレッドミルテスト)
運動負荷をかけて心電図を測定し、運動時の心臓の状態を評価します。
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ホルター心電図
24時間またはそれ以上の長時間にわたり心電図を連続記録し、日常生活での心臓の状態を詳細に把握します。
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心エコー(心臓超音波検査)
超音波を使って心臓の構造や動きを観察し、心機能の異常を調べます。
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CT検査やカテーテル検査
必要に応じて高度な検査を行うため、連携している専門医療機関へご紹介しています。
治療方法
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生活指導・定期フォロー
管理栄養士による栄養指導の実施や適度な運動、禁煙を推奨し、心臓にかかる負担を減らします。
- 内服薬を中心とした高血圧・脂質異常症のコントロール
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薬物治療
ニトログリセリン製剤による血管拡張、β遮断薬で心臓の負荷軽減、抗血小板薬で血栓予防などを行います。
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冠動脈インターベンション(PCI)やバイパス術(CABG)
狭窄が重度の場合は、連携医療機関でのカテーテル治療や外科的手術を検討します。当院では必要に応じて近隣の高度医療機関への紹介(名古屋市立大学病院、中部労災病院など)を行っています。 - 心臓リハビリテーションの実施
狭心症を発症された方や、カテーテル治療(PCI)・バイパス術(CABG)などを受けた方に対しては、「心臓リハビリテーション(心リハ)」と呼ばれる専門的なプログラムが非常に効果的です。
心リハとは、心臓病を抱える患者さんが安全に体力を回復し、再発を防ぎながら、日常生活を自信を持って送れるようにサポートする包括的な医療プログラムです。運動療法だけでなく、栄養指導、服薬管理、心理的サポート、禁煙支援などが含まれます。
心臓リハビリで得られる主な効果
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運動耐容能(体力)の改善
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再発・再入院のリスクの低下
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心不全や心筋梗塞への進行予防
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精神的な不安・うつ症状の軽減
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社会・仕事への復帰の支援
これまで「運動するとまた胸が痛くなるのでは…」と不安に感じていた方でも、医師や専門スタッフの管理下で行う運動療法は安全性が高く、むしろ心臓を守るトレーニングになります。
名古屋市南区の植谷医院では、狭心症の診療だけでなく、心臓リハビリの導入・実施や専門機関との連携も行っております。必要に応じて適切なタイミングでご案内いたしますので、ご希望の方はぜひご相談ください。
よくある質問
Q1. 胸の痛みがいつも出るわけではないのですが、大丈夫でしょうか?
→ 「一時的な胸の痛み」でも繰り返す場合は狭心症のサインかもしれません。
「胸が一瞬だけ痛くなったけど、すぐおさまったから大丈夫」と考えてしまいがちですが、狭心症の典型的な症状は“数分で自然におさまる”一過性の痛みです。
頻度が増えてきた、痛みの場所や種類が変わったという方は、心筋梗塞の前兆である不安定狭心症の可能性もあります。早めに循環器内科を受診しましょう。
Q2. 狭心症は薬だけで治せますか?
→ 薬だけでは不十分な場合もあります。根本的な治療は原因と重症度により異なります。
狭心症の治療には、ニトロ製剤やβ遮断薬、抗血小板薬などの薬物療法が基本ですが、すべての方が薬だけで改善するわけではありません。
冠動脈の狭窄が進行している場合は、カテーテル治療(PCI)やバイパス手術(CABG)が必要となることもあります。
また、生活習慣の改善(禁煙・食事・運動)も治療の一環として非常に重要です。
Q3. 胃の痛みや胸やけのような症状も狭心症ですか?
→ 「胃の痛み」「胸やけ」「みぞおちの不快感」が狭心症のこともあります。
胸の中央が痛むだけでなく、顎・背中・肩・みぞおちに症状が出ることも狭心症の特徴です。
とくに胃薬を飲んでも効かない痛みや、運動時・ストレス時に悪化する症状は、消化器ではなく心臓が原因の可能性があります。
Q4. 高齢なので、狭心症は年齢のせいでは?
→ 加齢はリスクのひとつですが、「年だから」と放置すべきではありません。
確かに、加齢や性別(男性)、家族歴は狭心症のリスク因子です。ですが、それ以上に重要なのは高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙などの生活習慣病の管理です。
定期的な検査と生活の見直しで、高齢でも狭心症を予防・改善することは可能です。
Q5. 症状が出ていないときでも受診する必要はありますか?
→ 狭心症は「無症状」の場合でも進行していることがあります。
特に糖尿病の方や高齢の方は、典型的な胸痛が出ない「サイレント狭心症」と呼ばれるタイプが見られることがあります。
「最近息切れしやすい」「以前より疲れやすい」「階段で動悸がする」など、微細な体の変化が実は心臓のSOS信号であることも。気になる場合は、心電図や心エコーなどの検査をおすすめします。
まとめ
「胸が痛む」「違和感があるけれど何科に行けばよいかわからない」そんな不安をお持ちの方は、どうぞお気軽に名古屋市南区の植谷医院の循環器内科へご相談ください。狭心症の早期発見と早期治療が、命を守る第一歩です。私たちは一人ひとりの患者さまの健康をサポートするため、丁寧な診療を心がけています。
医療法人植谷医院
愛知県名古屋市南区桜台1-14-1 桜本町駅すぐ
執筆者:
植谷医院 院長 植谷忠之(うえたに ただゆき)
日本内科学会認定医
日本内科学会総合内科専門医
日本循環器学会専門医
愛知県難病指定医(内科・循環器内科)
AHA ACLSプロバイダー・BLSプロバイダー
日本心臓リハビリテーション学会 心臓リハビリテーション指導士
日本心血管インターベンション治療学会